親が子どもに言い聞かせるように叱責すると・・・②
Aさんが、わざと間違ったことをするという宣言をして実際に実行する行動の要因は他にもありました。ある日、家にハンカチを忘れてきたことがあって、一日中、それを気にすることがあって、その日は、その言動が頻発していたそうです。その場合は、不安を解消してあげることが必要になります。
Aさんの事例を基に職員と話し合った行動問題の解決の手順についてまとめます。
⓪問題の原因を明らかにする(アセスメント)
①問題を予防する環境整備
②問題解決行動の支援と強化
③適切行動の分化強化
④行動を注意する、ソフトなペナルティ
⓪行動問題の原因
注意獲得行動と不安の解消ということがわかりました。
①問題を予防する環境整備
洗剤など口にするものを視界から除去する。ここでの物を減らす対応は、一時なものですし、必要なものをなくすことが増えるとQOLの低下を招くので注意が必要です。②以下で説明するセルフコントロールが身に着くにつれて可能な限り通常の環境に戻していくべきでしょう。
また不安の解消ですが、ハンカチを忘れたエピソードで説明します。Aさんはハンカチを家に忘れて気になってしょうがない状態です。ここでは「大丈夫」というメッセージを本人に具体的かつ有効に伝えることが鍵になります。そのためには「ハンカチは家にあるから大丈夫」と具体的に伝える必要がありますし、視覚化することが有効に伝える方法になるでしょう。
②問題解決行動
必要な時に必要なものがない時、どういう行動が求められるでしょうか?たとえば、手洗いの洗剤がない場合ですが、これは「洗剤、出してください」という要求行動です。また事業所内で作業の材料やスケジュールがセットされてないことでも不安を誘発していました。利用者への配慮は100%実行できれば、それにこしたことはありませんが実際には不可能です。その場合の問題解決行動も「材料をください」や「スケジュールをセットしてください」などの要求行動なのです。「ハンカチ忘れました」など不安の要因を訴えることもここに含まれる支援だと思います。
③適切行動の分化強化
注意引き行動で有効なのは、不適切なことをしている時に注意を向ける(この場合は「〇〇ダメ!」と注意する)ことではなく、不適切なことをしていないあらゆる瞬間をとらえて声をかけるということです。これは他行動分化強化という方法ですが、普段の施設の業務で職員が一貫してやり遂げるのは、なかなか困難です。そこで職員が自然に注意を向けられる工夫をするといいでしょう。たとえば作業が終わったら報告してもらい、その時に称賛や声掛けを行うというものです。
④行動を注意する、ソフトなペナルティを与える
①②③は、不適切行動に直接アプローチするものではありませんが、不適切行動を減らすのにとても有効なものです。しかし一般の人たちの中には「不適切なことをしているのに何も注意しなくていいのか?」とか「こちらが何も言わないと本人は『やってもいい』と勘違いしないか?」などの疑問を訴えてこられる人もいます。これはごもっともなことです。
行動問題へのポジティブなアプローチ(PBS: Positive Behavior Support)では、①②③を重視しています。私もその考えには賛同しますが、④のアプローチも必要かなと思っています。しかし④を実行しようとするとAさんのように不適切なことをして叱責をする(「〇〇しちゃダメ!」と言う)ことは、注意獲得につながるような場合にジレンマが生じます。ではどうするのか?
言葉で注意する代わりに、黙って視覚的な〇×ルールを提示するという方法です。洗面所に貼っておくという方法は取りません。あくまでも不適切行動が生じそうなときにだけ本人に見せるのです。注意書きを貼っておかない理由は、逆に不適切行動を誘発してしまう可能性があることと、いつも貼っていると普段見る張り紙と同じように効果が薄まっていく可能性があるからです。
〇×ルールだけでは効果を発揮しない場合は、そのルールに実際の随伴性を付加します。つまり、〇の行動の時に強化、×の行動の時に弱化するのです。弱化の対応は、嫌子を付加するのではなく、好子を一時的に取り去る(タイムアウト)や好子を取り去る(レスポンスコスト)方法を考えます。これらの対応は、私たちの日常でも見られる対応で、ソフトなペナルティと呼ばれるものです。
※いずれの取り組みも、倫理的なことを考えて計画しなければなりません。所属する施設などの管理者や同僚、倫理委員会があればその許可を得ること、保護者や本人と同意を得ることも大切です。施設にそのような仕組みがなければ、早急に整備することをお勧めします。